「義血侠血」「挿話」

泉 鏡花・徳田 秋声

【作家について】

○泉鏡花(本名・泉鏡太郎)は、1873年(明治6)11月4日、このバス停の近く金沢市下新町で生まれました。尾崎紅葉に師事して文壇に登場した明治時代半ばから、亡くなる1939年(昭和14)までに小説、戯曲を300編あまりも世におくり出しました。その幻想と浪漫に彩られた作風は、芥川龍之介、里見弴、三島由紀夫、澁澤龍彦など多くの文学者を魅了しました。

○徳田秋声(本名・徳田末雄)は、1871年(明治4)12月23日、金沢市横山町に生まれました。鏡花とおなじ養成小学校(現・金沢市立馬場小学校)に通いました。文学においても鏡花と同じ尾崎紅葉のもとで修業しました。しかし、作風は鏡花とは対照的に派手さはなく客観的な描写で、いぶし銀のような渋い魅力を発する日本の自然主義を代表する作家となりました。1943年(昭和18)に亡くなりました。

【物語】

○「義血侠血」は、1894年(明治27)、師である尾崎紅葉の指導のもと『読売新聞』に発表されました。売れっ子の水芸の太夫・滝の白糸と法律家志望の青年・村越欣弥の恋を描いた作品です。ある夜、天神橋に納涼に出た白糸は、馬車の御者であり一目見て恋した欣弥に再会します。白糸は欣弥の学問の仕送りを申し出て、そのかわり生涯仲良く交わることを約束するのですが……。

○「挿話」は、1925年(大正14)に雑誌『中央公論』に発表されました。次兄、正田順太郎の病気見舞いのために帰郷した際に、東の廓(現・ひがし茶屋街)で芸妓屋を営んでいた遠縁にあたる女性の家で20日ほど過ごした体験が基になっています。そこで生まれる大人同士の密やかな恋の機微が描かれています。

【舞台】

○「義血俠血」
かつて芝居小屋が並んでいた浅野川河畔。「天神橋」は、夏の夜、白糸と欣弥が運命の再会をするロマンチックな場面の舞台となっています。この作品にはほかに兼六園(露根松、霞ヶ池)や「金沢地方裁判所」(現在の兼六元町)など、が出てきます。鏡花のみち・梅ノ橋の傍には、「滝の白糸」像や「滝の白糸」碑が立てられています。

○「挿話」
主な舞台である主人公が滞在する家は、実際は「岩津井」という芸妓屋です。東山1丁目にあり、今は民家となっています。主人公たちが芝居見物に行く尾山座は、このバス停の少し先のマンション「浅野川ハイム」の付近にありました。

【引用部分】

○「義血俠血」
引用にある文は、二人が将来を誓い合うシーンからです。仕送りの報恩として「ただ他人らしくなく、生涯親類のようにして暮らしたい」という白糸に対し、欣弥は潔く返答をします。このあと二人は黙って見つめ合います。その無言の時間の中に生涯の契りが交わされたのです。

○「挿話」
主人公の道太が、遠縁のお絹・おひろ姉妹がやっている芸妓屋の離れの二階に滞在することとなり、初めての朝を迎える場面です。寝心地は安らかで、目覚めると越後獅子のお浚いをしているのが聞こえ、この屏風が目に入ります。いかにも東の廓の芸妓屋らしい場面です。

【リンク】

※ 東茶屋街の奥にある東山寺院群には、全性寺、真成寺、蓮昌寺など泉鏡花の作品の舞台となった寺院があります。


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