泉鏡花(本名・泉鏡太郎)は、1873年(明治6)11月4日、このバス停の近く金沢市下新町で生まれました。尾崎紅葉に師事して文壇に登場した明治時代半ばから、亡くなる1939年(昭和14)までに小説、戯曲を300編あまりも世におくり出しました。その幻想と浪漫に彩られた作風は、芥川龍之介、里見弴、三島由紀夫、澁澤龍彦など多くの文学者を魅了しました。
1927年(昭和2)、鏡花が53歳の時に発表した小説です。能の名人橘八郎が、「羽衣」を演じるために故郷に帰ってくることで始まる物語です。かねて心を寄せていた従妹お悦の家を訪ねてなつかしさに浸るのですが、次の日、八郎の実の妹で、生まれてすぐに養女にもらわれた八郎の実の妹お久が訪ねて来て、自らの不幸な人生を訴えます。八郎は、無情にもお久に厳しく接し、舞台で「羽衣」を演じ切ろうとするのですが……。
主人公八郎、ヒロインお悦、語り手槇村の3人が、八郎の実の妹お久を招いての夕食の材料の買い出しに行く場所として近江町市場が登場します。また、八郎が「羽衣」を演じ舞台は、尾山神社にかつてあった能舞台だと考えられています。
冒頭の活気あふれる近江町市場の場面です。カワハギや小鯛、ホウボウに鱚(きす)と色とりどりの魚を並べて威勢よく売っている様子が描かれています。その中で、取れたての香箱蟹を浜から直接売りに来ている女の声が響くのです。これに続いて、次のような一節が書かれています。
「香箱蟹だそうである。ことりと甲で蓋(ふた)をして如何(いか)にも似て居る。名の優しい香箱を売る姉(ねえ)さんだが、悪く値切ろうものなら泡の如く毒を噴く。」
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